第6章

芸術が大切な役割を果たしているさまざまな場

 

芸術は、およそ考えられる限りのすべての場において、高齢者の生活の質の向上に貢献している。家庭、地域の公民館、美術館、劇場、地域の学校、大学、教会、図書館、 退職者コミュニティ、高齢者デイケアセンター、老人ホーム、診療所、病院、ホスピス等々。高齢者の生活に芸術を取り入れようと、専門のケア職員や、医師、看護師、芸術療法士、芸術家、さまざまな分野からのボランティアなど多くの人が尽力している。こうしたプログラムを継続し進展させるには、資金――公的資金であれ私的なものであれ、寄付金であれ助成金であれ――の確保が大きな意味を持つ。だが、成功の鍵を握るのは、何よりも関係者の熱意と努力である。また、プログラムに参加する高齢者自身や、彼らへの芸術の効果を目の当たりにするその家族達からの支援も大きい。芸術の力を重視している代表的な施設をいくつか下に挙げる。それぞれ、充実したwebページを持ち詳しい情報を得ることが出来る。

 

退職者コミュニティ

アメリカでは1970年頃から、気候が良く比較的物価が安い土地(フロリダとアリゾナの2州が最も人気がある)に退職者コミュニティが次々と作られるようになった。高齢者が集まって互いに助け合い、老後の生活を楽しむのである。新しく作られたコミュニティ内に手頃な値段で住宅を購入すれば、物騒な都会を離れてのんびり生活することが出来た。60歳とか65歳以上といった居住者の年齢制限のおかげで、若者のたてる騒音や考え方のギャップに悩まされることもなくなった。今日でもこうした情況にほとんど変わりはないが、住人保護の観点からコミュニティの多くはゲートを設け、高級住宅も加えている。コミュニティの居住者は、そこでの暮らしに満足しているという。もし単調な郊外生活から移ってきたのであれば、満足する気持ちも分かる。高齢者だけを受け入れて隔離した不自然な住環境も、老若混じって営む普通の生活の喪失も、別に気にならないことだろう[1] こうしたコミュニティを、たとえば、オランダのアメルスフォルト郊外のカテンブローク全世代型コミュニティと比べてみて欲しい。詳しい情報や写真については、アメルスフォルトのカテンブロークのwebページを参照。

http://www.kattenbroek.info/

 

今日の退職者達は、一昔前の高齢者より高い教育を受け、健康も経済力も上回っている。その上、より行動的で、コミュニティを選ぶ際もゴルフコースがあるとか、ビジネスパークに近い、大学の構内にあるといったことを重視する。退職後は、より質の高い生活を送りたいと願う。この先、転居を強いられたくない。そこで、生涯ケアや継続ケア付きの退職者コミュニティへの需要がますます高まっている。また、福祉センターやレクレーション活動、質の高い食事、図書館、教育プログラム、コンピュータ・センターなどへの需要も高い。ゴルフコースやプール、遊歩道を備えたところも多い。こうした流れの中で、さまざまな芸術プログラムも提供されるようになってきた。コンサートやダンス、劇場に出かけたり展覧会や芸術祭に足を伸ばしたり、あるいは決まった時間に専用のアトリエで絵画や織物、陶芸を習ったりする。ワシントンのレイシーにあるパノラマシティは、退職後も南部に移住せずにこれまでの住居の近くにとどまる今流行りの退職生活の先駆けとでもいうところで、非常に成功している例である。

 

継続ケア退職者コミュニティ

 

ワシントン州

パノラマシティ Panorama City

諸活動主任 Veronic Kessler

電子メール PanCity@aol.com

1751 Circle Lane SE

Lacery, Washington 98503

Tel: 880-4456-0111

Fax: 360-438-5901

retire@panoramacity.org

 

「都会の過当競争から遠く離れたコミュニティ」

 

パノラマシティの敷地は120エーカーで、公園のような広さをほこるが、隅々までコミュニティの温かさに満ちている。ワシントン州レイシーにあるパノラマシティには、快適な単世帯用住宅、庭付き二世帯住宅、一戸建てや集合住宅などさまざまな形式の住宅があり、湖畔の一戸建てなり、便利な集合住宅なり好みで選択することが出来る。、サービス料や維持管理費は、家賃に含まれる。職員数は300名を越す。中央にある管理棟と診療所で気軽に買い物をしたりサービスを受けたり出来る。薬局、コンビニエンスストア、美容院、レストラン、銀行、株式仲買所,歯科、内科、理学療法室なども揃っている。コミュニティ外への外出には、車での移送サービスもある。

 

行動的に日々を送っているだけに、さまざまな娯楽や文化活動に対する住人の需要は高い。遊歩道や小規模ゴルフコース、共有庭園などは最初から備わっているし、ほど近いところに釣りや水泳、ハイキングを楽しめる場がある。芸術活動を楽しむ場にもことかかない。木工所、陶芸や織物の工房、美術アトリエ、宝石細工や手工芸の作業所が敷地内に設けられている。もちろん図書館もある。こうした素晴らしい設備をフルに利用する体力があるうちに、コミュニティに越してくるのが一番だと筆者に語った住人もいた。ここには62歳から入居できる。

 

パノラマシティはNPOとして登録されていて、生涯住宅と各種のサービスやヘルスケアを補償する継続ケア退職者コミュニティとして人気を集めている。入居者はこの先、さまざまなケアが必要になる可能性がある。コミュニティ内には医院や歯科、ベッド数150の回復期患者用の保養・リハビリセンターがある。さらに、在宅で自立生活を送っている住人をサポートするプログラムや、認可を受けたケアつき住宅も用意されていて、住人は安心してくらすことができる。 コスト面を見てみると、住人が負担するのは入居時に払う「敷金」と毎月の「月払い金」である。敷金(入居後 67ヶ月以内に退居する場合は一部返還される)を払うえば、入居者は終身賃借り権を確保することが出来る。敷金の額は住宅の築年数や大きさ、立地条件で異なる。不動産ではなく、ここで受けられるサービスに対する契約である。つまり安心感とこの先必要な支援を受けるための生涯保健証金である。パノラマシティでは、各住人と交わした契約は各の存命中は保管することになっている。「月払い金」は単なる月割りの家賃ではなく、受けたケアにより額が決まる実費である。敷金の額は集合住宅では約62,500ドル、チェンバーズ湖畔の一戸建て住宅で約265,000ドルと幅がある。月払い金は約700ドルから1,425ドルくらいである。多くの住人が、パノラマシティでの生活がいかに快適か話してくれた。入居希望者が多く、住宅に空きが出るのを順番待ちしている状態である。

 

上記はパノラマシティのホームページをまとめたものである。詳しくはホームページ参照。

http://www.panoramacity.org/

 

退職者コミュニティやその他の住宅選択の問題は、第4章「高齢者の新しい住宅事情」にも詳しく記している。例外的な退職者コミュニティをいくつか下に挙げる。

 

フロリダ州

ベントリー・ヴィレッジ

Bentley Village (A Classic Residence by Hyatt)

704 Village Circle

Naples, Florida 34110

Tel: 941-597-1121

Fax: 941-597-5349

Web site: http://www.bentley-village.com

Also: http://www.hyattclassic.com/naples/index.html

 

見た目も実際も豪華なカントリークラブという印象である。高額の入居費を要する。アメリカの各地に作られている「ハイアット・クラシック・レジデンス」のひとつである。ハイアット・クラシックのそれぞれの住宅の詳細な報告を調べることが出来る。

 

ニュージャージー州

Medford Leas  CCRC

Route 70

Medford, NJ 088055

Tel: 609-654-3000

Fax: 609-654-7894

http://www.medfordleas.org/

 

メドフォードリースは、認可を受けたクエーカー教系の継続ケア退職者コミュニティで、入居者が選択できるようにさまざまなタイプの住宅があり、費用やサービスにも幅がある。庭園はみごとである。このコミュニティの景観は、ルイス・W・バートン植物園、自然保護園とうまく調和している。

 

オレゴン州

Oatfield Estates  Elite Care

Bill Reed and Lydia Lundberg

Email: Lydia@oatfieldestates.com

4444 SE Oatfield Hill Road

MIlwaukie, OR 97267

Tel: 503-653-5656

http://www.elite-care.com/oatfield.html

www.elite-care.com

 

Termed Extended Family Residences of Elite Careはケアつき住宅の選択肢として作られている。ここは特に、運営やケアのさまざまな方面にいち早くコンピュータを取り入れたことで知られている。

 

 

老人ホーム

従来の老人ホームには、心身機能の衰えた高齢者を収容する病院のような施設というイメージがあるが、今日の高齢者はケアが必要になってもそのような老人ホームには入りたがらない。医療施設のようなホームは、生活の場としてふさわしくないという認識が広まりつつある。そのために第4章で述べたように、さまざまな住宅の選択肢が生まれている。

 

それでも高齢者ケアの中心の場は、やはり老人ホームである。現代の高齢者の需要に応えられるよう、さまざまな改善が成されている。たとえば、終日ケアを要する高齢者用の施設は、継続ケア施設の一部として組み込まれることが多くなってきた。ここでは転居の必要なく余生を送れるので、安心して居住することが出来る。また医療施設のような雰囲気を改善して、家庭的な雰囲気を出すように工夫している。同じような動きは、病院でも見られる。おそろしい場というイメージを改め、親しみやすく、これまでより家庭的で、近隣地域に溶け込んだ暖かい雰囲気作りに努めている。(病院については下に挙げる。)こうした流れの中で、芸術の果たす役割がますます大きくなっている。室内外をより美しくするのに、芸術作品を取り入れる傾向が高まっている。壁には絵画、廊下には彫刻作品、ホールや天井には絵タイル、そして庭園には自然の景観を取り込む。また、建物やインテリアの配置や空間処理、照明、色彩、素材等、デザイン上の工夫が住人の健康と密接な関係があることも段々認識されだしている。下に挙げた老人ホームではすべて、芸術を高齢者ケアに欠かせない大切な要素として取り入れている。

 

ニューヨーク州 リヴァーデイル

The Hebrew Home for the Aged at Riverdale

5901 Palisade Avenue

Riverdale, NY 10471

General Tel: 718-581-1000

Curator: Susan Putterman

sputterman@mail.hebrewhome.org

Curator Tel: 718-581-1330

Web Site: www.hebrewhome.org

 

認可を受けた本格的な美術館があるのは注目に値する。芸術療法も行われている。

 

ヴァージニア州

Goodwin House West

3440 S. Jefferson Street

Fallls Church, VA 22041

Tel: 703-578-7201

Fax: 703-578-7519

http://www.goodwinhouse.com/ghw.htm

Art Therapist: Rebecca Perry

bperry@goodwinhousewest.com

 

すぐれた芸術療法プログラムを持つ。またアトリエと工房があり、そこで指導される絵画や手工芸も注目に値する。

 

高齢者用の総合施設

フロリダ州 マイアミ

Miami Jewish Home & Hospital for the Aged—MJHHA

Elain Schmacher: Community Outreach

Sarah Huther: Director of Tharapeutic Programs/ Art and Music therapy

5200 Northeast 2nd Avenue

Miami, Florida 33137

Tel: 305-751-8626 (Public Relations: ext. 2201)

Fax: 305-754-4530

Email: dgardens@gate.net

Web Site: www.douglasgardens.com/

 

ここは高齢者の総合施設である。老人ホーム、アルツハイマー患者ホーム、ケアつき住宅、自立支援住宅、リハビリ施設、PACE(高齢者総合ケア)、ホスピス、ホームケアからなる。さらにシュタイン老人学協会主催の教育プロジェクトや高齢者用住宅プロジェクトを通して、高齢者の自立と生活の質の向上に貢献している。

 

陽光あふれるマイアミ州にあり、総面積20エーカーの美しい敷地内には鳥舎、昔風のアイスクリームパーラー、理美容院、住人用のマーケットや銀行、ギフトショップ等が並ぶ。建物の多くはアールデコ調で、マイアミのアールデコの雰囲気にしっくりなじんでいる。

 

下に挙げるのはMJHHAにある主要な施設である。(詳細はwebページ参照。)

 

*アーヴィング・サイペン・タワー Irving Cypen Tower

高齢者用自立生活型集合住宅。食堂あり。小ペットの飼育可。(短期のペットの訪問宿泊も可)

 

*ヘーゼル・サイペン・タワー Hazel Cypen Tower

認可を受けたケアつき集合住宅で、各室に高級家具付き。美容院、ウエイターのサービスつきの本格的なレストラン、諸活動室、運動室、プール、キッチン、礼拝室、テレビ鑑賞室等の設備あり。

アルツハイマーの入院患者用ユニットや外来患者用デイケアの設備あり。

家族、友人、訪問客用の宿泊室あり。

 

*シュタイン老人学協会 The Stein Gerontological Institute

http://www.douglasgardens.com/SGI.htm

調査研究、教育、訓練を行う。

ユニバーサルデザインに焦点を当てた高齢者用住宅や高齢者用の環境作りの相談。

 

*トッペル・リハビリ・センター Toppel Rehabilitation Center

長期リハビリ

短期リハビリ

慢性病痛み緩和

家族や友人用の宿泊コテージあり。

亜急性ケア

 

*特別養護老人ホーム

462名の入居者から「病院」と呼ばれている施設

 

*ダグラス・ガーデン・ホスピス Douglas Garden Hospice

www.douglasgardenshospice.org

 

*アルツハイマー及び痴呆症患者用施設

入院患者――アルツハイマー特別ケアユニット

外来患者――アルツハイマー患者デイケア

      ケア供給者支援団体 

      在宅ケア供給者の一時休養支援プログラム

 

*ダグラス・ガーデン・ホームケア Douglas Garden Home Care

医療面、その他の面での在宅ケアサービス

 

PACE (Program of All-inclusive Care for the Elderly) 高齢者総合ケア

http://www.floridapace.org/

フロリダPACEセンター(FPC)では、FPCサービス管区内に住む、可能な限り在宅で自立生活を送りたいと願う55歳以上の高齢者のヘルスケアを、個別に支援する。老人ホームに代わる選択肢として、注目される。

 

芸術の役割

MJHHAでは芸術が重要な役割を果たしている。そのことは、カラフルなアールデコ調の全体の外観や、芸術的なセンスでしつらえられた庭園、美しい植物、その間を縫う遊歩道、みごとに配置された休憩用のベンチや素晴らしい彫刻物、噴水、鳥舎を目にしただけですぐに感じられる。建物の内部も、美しくデザインされている。レトロ調のアイスクリームパーラーは気楽に立ち寄れる場として、住人にも訪問客にも人気だ。ダグラス・ガーデンに入ってまず目を引くのが、ここのさまざまな建物の内部を飾る住人の作品の数々である。ケアつき集合住宅のヘーゼル・サイペン・タワーには、「チャールズ・レニー・マッキントッシュ椅子」が置かれ、ここのテーマであるアールデコとみごとな調和を見せている。廊下や各室も、絵画や彫刻、ステンドグラスで美しくしつらえられている。

 

住人用の芸術プログラムは、レクレーション療法部が監督して、住人の健康の向上と高水準の生活の質の維持のために週7日、24以上の活動が毎日実施されている。芸術鑑賞活動には映画やユダヤ民族音楽、特別娯楽プログラム等があり、美術工芸活動には絵画、陶芸、コラージュ、生け花、演劇、歌等がある。作品の一部は販売して、運営資金に充てる。こうしたプログラムに参加しない(出来ない)住人達のためには個室訪問プログラムが用意されていて、会話や適切な活動で楽しみを与える配慮がなされている。

 

病院

病院は高齢者の居住施設ではないが、多くの老人ホームは医療施設として設計、建築されていた。MJHHの「病院」は確かに特別養護老人ホームの意で使われている。高齢者施設に家庭らしさが求められ出した昨今、この「病院型ホーム」も見直しがせまられている。病院のデザインにおいても、健康改善に役立つデザインが考慮されつつある。病院は孤立した医療の場ではなく、地域社会と社会的、文化的に密着した魅力的な癒しの場であるべきだという考えを持つ人が増えてきている。共有スペースを飾り、職員の心をなごませて患者やその家族、友人に喜びをもたらすのに芸術が功を奏している。庭園についても同じことが言える。一般市民用のコンサートや演劇等、地域社会の催しごとの場としても病院が使われ出している。芸術作品の巡回展示場にもなる。さらに、病院の建築やデザイン自体が癒しに役立つことをも忘れてはならない。

 

病院をケアや癒しを与える場とするのに芸術が果たす役割については、改めて問うまでもない。人々の気持ちを和め、患者や職員、家族、友人の生活の質の向上に貢献する。もちろん、芸術の持つ力に早くから気づいていた人達もいる。フローレンス・ナイチンゲールは『看護について』でこう述べている。

 

美しいもの、とくに色彩豊かなものが病人に与える効果について、あまり関心が払われていない。

熱病の患者は(自分自身の体験からも言えるのだが)、窓の外の景色を眺めて楽しむこともかなわず、見えるものといえばただ木の節程度である。そんな患者に色鮮やかな花束を見せたときの喜びようを、私は一生忘れないだろう。

よくなるのは「気分」だけだと、人は言う。決してそんなことはない。「身体」もよくなるのである。形や色や光の人体への効果についてはほとんど知られていないが、これだけは自信を持って言うことが出来る。本当に身体もよくなるのだと。

患者への見舞いの品の美しい形や華やかな色彩が、治癒の手段ともなるのである。[2]

 

今日では、世界中どの病院でも、芸術が患者の癒しに役立つことが認識されだしている。高齢になると誰でも病院にかかる必要が出てくるものだ。芸術の持つ癒し効果について、フロリダ大学ゲインズビル校付属シャンズ病院の例を見てみよう。

 

フロリダ大学 ゲインズビル校

医学部

シャンズ癌センター及び芸術部

シャンズ医療芸術(AIM

「ヘルスケアと芸術」研究・教育センター(CAHRE

 

フロリダ大学付属シャンズ病院

http://www.shands.org/hospitals/UF/default.htm

シャンズ子供病院

http://development.shands.org/hospitals/Children/

 

フロリダ大学シャンズ病院はフロリダ大学医学部付属の非営利の研修病院で、ベッド数は576110の専門部門で500人の医師が働いている。患者のケアと医師の研修、研究が、この病院の主目的である。シャンズ病院で行われている芸術プログラムを2つ紹介しよう。シャンズ医療芸術(AIM)  と「ヘルスケアと芸術」研究・教育センター(CAHRE)である。

 

シャンズ医療芸術 (AIM

web site:  http://www.shands.org/hospitals/UF/AIM/default.htm

http://development.shands.org/hospitals/UF/AIM/

 

AIMでは、芸術と治療の関係を研究している。

視覚芸術を利用して、殺風景で冷たい印象の病院に彩りと創造的な雰囲気を生み出そうと努めている。1990年以来、AIMでは病院や診療所の廊下や待合室、診察室を美術作品(常設あるいは巡回展示)で飾る取り組みを行っている。

ケア供給者と芸術家,患者、その家族、医学生、地域住民全体が一丸となって、創造的な芸術を通して心身の機能を整える体制を作り上げることが、目標である。

(AIM webページより引用)

 

AIMプログラムは、1991年に骨髄移植ユニットの責任者ジョン・グレアムポール医学博士と看護師で芸術家のメアリ・ロックウッド・レインにより創設された。壁に絵を飾り、ロビーで生演奏するというだけのプログラムではない。ここでは、地域に住む芸術家達が大勢のボランティアの手も借りて、時にはベッド横で、患者に絵画、彫刻、ダンス、演奏等を教えるのである。

 

病院で行われているAIMプログラムは、大きく2つに分けることができる。環境を美しくするものと、患者や職員に芸術活動の楽しさを伝えるものである。メイン病院ロビーにある患者とその家族が手描きタイル1,000枚で作った60フィートのモザイク壁画「癒しの壁」、子供病院の「私達の街」プロジェクト(絵タイルで天井を飾る)、シャンズ小児科クリニックの「楽しい森」壁画、アトリウムでの生演奏、骨髄移植ユニットで上演される寸劇、患者のベッドサイドに芸術家が来て患者と共に行う各種の芸術活動――このほかにもシャンズ病院にはいろいろな活動があり、思いやりあふれる温かい治療の場のモデルとなっている。また、質の高いオリジナル作品の数々を所有していて、病院中いたるところにそうした芸術作品が展示してある。癌センターの日本庭園は、自然の景観を活かした心安らぐ場として患者や家族、職員達に喜ばれている。

 

ここでは患者や職員は芸術を楽しみ、積極的に芸術活動に加わっている。患者はもとより、医師、看護師、地域住民、患者の親戚など誰でも気軽に参加できる。劇を演じる、展覧会に出品する、詩の朗読をする、合唱に加わる、ものを作る。毎月100以上の催しがある。「郷土の芸術家」プログラムにはダンス、音楽、視覚芸術、朗読等、いろいろな専門分野の芸術家達が名を連ねていて、必要時にはいつでも手を貸してくれることになっている。目標は、明るく自発性や喜びにあふれた場にして、病院の文化的環境を変えることだ。ここで紹介したのはAIMの芸術プログラムのほんの一部でしかない。詳しくはシャンズAIMwebサイトを参照。

http://shands.org/hospitals/UF/AIM/

 

「ヘルスケアと芸術」研究・教育センター(CAHRE

フロリダ大学芸術学部

www.arts.ufl.edu/cahre/

 

フロリダ大学では1996年にダンス療法を開講していたが、CAHREはそれをもとにして1999年に設立された。現在、CAHREには3人の主任がいる。

* ジョン・グレアム医学博士 (著者『病気と創造的な自己表現術』ニューハービンジャー出版、2000年) * ソンヶ・ヘンダーソン (ニューヨークの「イサドラ・ダンカン・レパートリー・ダンス・カンパニー」のプロ舞踊家。シャンズ医療芸術の「郷土の芸術家」プログラムでも8年間活動。) * :ラスティ・ブランドマン(フロリダ大学芸術学部「演劇とダンス」科の助教授。1996年に「郷土の芸術家」プログラムの一員になる。また舞踊家としてカリキュラム作りや研究にも従事。) フロリダ大学芸術学部の「ヘルスケアと芸術」研究・教育センター(CAHRE)は、芸術を健康維持や医療に活かす目的で創設された。芸術学部も医学部もある大学内に設けられていて、また優れた総合病院も近くにあるので、環境的に素晴らしい。もちろん、シャンズのAIMプログラムとも密接につながっている。 。芸術学部も医学部もある大学内に設けられていて、また優れた総合病院も近くにあるので、環境的に素晴らしい。もちろん、シャンズのAIMプログラムとも密接につながっている。

 

CAHREには3つの使命がある。調査研究、教育、地域社会との交流である。

1.調査研究:種々のプログラムや調査、カリキュラム、地域交流等を通じて、芸術の医療や健康に及ぼす影響について調べる。フロリダ大学の研究所や大学院研究プログラム資金等がサポート。

2.教育:大学や専門校などあらゆるレベルの芸術プログラムを育成。ダンス療法はフロリダ大学「演劇とダンス」科で誕生。

3.地域社会プロジェクト:地域住民はじめ、国、ひいては世界の人々に各種の医療及び教育プログラムを提供。「新生」プログラムは、ヘルスケアに従事する職員に芸術やリラックス法を教えるプログラムである。

 

詳細はCAHREwebサイトを参照。

www.arts.ufl.edu/cahre/

 

 

フロリダ大学ゲインズビル校のシャンズ病院は一例に過ぎず、アメリカには芸術をヘルスケアの場で活かしている病院がほかにもたくさんある。「老人ホーム」の例のように、医療の場に芸術を導入する動きは世界中で見られる。20037月発行の『NEAレポート・ヘルスケアの場の芸術導入の活性化について』には、模範的な病院が12例ほど挙げられている。中でも一番古くからあるのが、1978年にジャニス・パルマーが設立したデューク医科大学の「病院芸術文化プログラム」である。

 

デューク医科大学文化サービスプログラム

The Duke University Medical Systems Cultural Services Program

Cultural Services

Duke University Medical Center 3017

Durham, North Carolina 27710

Phone: 919-684-2007

Email: Linda.belans@mc.duke.edu

http://edservices.mc.duke.edu/cultural_services/

 

デューク医科大学の「病院芸術文化プログラム」はこの種のものでは一番歴史が古く、これ以後各地に誕生したプログラムの手本になっている。ジャニス・パルマーは講義や著作の中で、幾度となくこの芸術プログラムについて触れている。また2001年に、アメリカのヘルスケアと芸術協会を基にして、日本にヘルスケアと芸術協会を設立するのにも尽力した。デューク医科大学で1978年から行われている芸術プログラムでの活動についても、数多くの記録がある。ジャニス・パルマー著『健康のための芸術運動の紹介、医療施設への芸術導入』参照。Community Arts Network, Reading Roomのオンラインで入手可能。

http://www.communityarts.net/readingroom/readingroom.php

 

次に挙げる2つの病院は、どちらも園芸療法で知られている。園芸療法については、後の章で安川緑教授が詳しく述べる。

 

Legacy Good Samaritan Hospital and Medical Center

http://www.legacyhealth.org/findus/hospitals/gshmc/gshmc.ssi

Legacy Rehabilitation Services

Teresia Hazen Med, HTR, QMHP

Registered Horticultural Therapist

1015 N. W. 22nd Avenue

Portland, Oregon 97210

Tel: 503-413-6507

Fax: 503-413-8103

Thazen@lhs.org

Horticultural Therapy URL: http://www.legacyhealth.org/about/foundations/gshortic.ssi

 

The Rusk Institute of Rehabilitation Medicine

Nancy Chambers, Horticultural Therapist

400 East 34th St.,

New York, NY 10016

http://www.msnyuhealth.org/hso/hsop_index.jsp?hosp=ri

http://www.msnyhealth.org/ri/rusk/gg_edu.jsp

 

 

ホスピス

ホスピスは、もはや治る見込みのない末期患者とその家族に慰めとサポートを与えるように配慮された、特殊な緩和ケアの方策である。単なるケアの場ではなく、ケア精神そのものなのである。ホスピスケアの大部分は、最もくつろげる場で、すなわち患者の家庭で行われる。ホスピスケアの目的は、患者に慰めとサポートを与えて残された日々の生活の質をできるだけ高めることだ。緩和ケアは、単に身体的な苦痛に対してだけでなく、感情面、心理面、社会面の苦痛をも含めた「総合苦痛」に対応する全人的医療の精神で行われる。

 

特別な訓練を受けた緩和ケアの専門家達がチームを組み、痛み緩和に努めながら患者を世話し、家族の心を支える。死別に対するカウンセリングもホスピスの任務のひとつだ。ここ20年、ホスピスでは人権に配慮し、患者と家族が共に支え合いながら心の準備をして死を受け入れられるように尽力している。患者と家族がホスピスケアの中心になっているだけに、生活の質の充実がますます重要視されてきている。こうした切実な願いに応えるべく、ホスピスも発展を続けている。

 

1867年、イギリスの内科医シスリー・ソンダース博士がロンドン郊外にセントクリストファー・ホスピスを設立して現代のホスピス運動の先鞭をつけた。当時は病気の治療のみが重視され、末期患者の身体的、精神的な苦痛は放っておかれることが多かった。ソンダース博士は末期患者の訴えに耳を傾け、彼らの切実な願いに応えるためにホスピス活動を始めた。フローレンス・ナイチンゲールに共感した博士は、美しいものは患者に良い効果を与えると考えた。そのため、開設当時からホスピスでは芸術作品が重要な役割を果たした。博士は、ホスピスに飾る絵画を探しているときに出会ったポーランドの画家、マリアン・ボフーズと結婚したほどである。ボフーズはセントクリストファー・ホスピスで芸術活動を行った。ホスピスには彼の作品60枚が今も飾られている。[3]

 

世界中のホスピスの多くは、ホスピス第1号であるこのセントクリストファーをモデルにして作られている。だからこそ、ホスピスの全人的ケアの中で重要な役割を果たすものとして、芸術作品や芸術療法が初めからすんなり受け入れられているのだ。下で述べるコネチカット・ホスピスはその一例である。ホスピスについての詳細はアメリカ・ホスピス財団のホームページ参照。http://www.hospicefoundation.org/

 

The Connecticut Hospice, Inc.

100 Double Beach Road

Branord, CT 06405

Tel: 203-315-7500

E-mail: info@hospice.com

www.hospice.com

 

芸術プログラム

連絡先:芸術プログラム主任 キャサリン・ブラッサム Katherine Blossom

cthospc@interserv.com

 

1994年設立のコネチカット・ホスピスはアメリカ初のホスピスで、その後これをモデルにホスピスがアメリカ各地に作られるようになった。筆者も訪問したが、緑の芝生や花壇、木々に囲まれた建物で非常に印象深いところだった。明るい解放スペースがふんだんにあり、庭園にも楽に出られるようになっている。廊下には絵画が、アトリウムには写真が展示され、共有スペースでは患者とボランティアによる音楽の生演奏、ベッドサイドでは手工芸。こうしたもので、筆者の予想をはるかに上回る生き生きした雰囲気がみなぎっていた。芸術プログラムの主任、キャサリン・ブラッサムによると、ここでは他の多くのホスピスと違い職員の入れ替わりが、芸術関係の職員を含め少ないという。全人的な緩和ケアは、ケア供給者側にとっても恩恵があるということを示唆しているようだ。もちろんストレスは生じるので、その対処法を工夫する必要がある。ブラッサム氏の案内で、筆者は「癒しの部屋」を見学した。ストレスを少しでも和らげられたらという思いで作られたこぢんまりした部屋で、多くの階段が空の方に向かって伸びている。ブラッサム氏は「叫びの部屋」と呼んでいた。

 

コネチカットホスピスの特徴は医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカー、聖職者、芸術家、ボランティアといった人達がチームを組んで、末期患者の身体面、感情面、精神面、社会面のさまざまな苦痛の緩和に取り組み、また残されゆく家族や友人に対するサポートを与えていることである。ホスピスケアは、家庭でも入院施設でも行われる。

 

 

コネチカット・ホスピスと芸術

 

シスリー・ソンダース博士のセントクリストファー・ホスピスのように、コネチカット・ホスピスでも生活の質を重視しているので、当然ながら芸術はケアの大切な要素になっている。それだけではない。州政府に働きかけて、ホスピス芸術プログラムを州のヘルスケア制度の中に組み入れてもらったのである。つまり、芸術を医薬品や食事と同等の必需品として取り入れていないホスピスには、州の許可が下りないことになったのだ。さらに、カルテには患者に供した芸術の記録を残し、患者評価の際にそれも考慮することになった。芸術プログラムの主任は芸術療法士としての訓練を積んでいるが、ここでの芸術への取り組みは純粋に芸術のための芸術で、よくある芸術療法的な芸術ではない。

 

ケアに当たる芸術家のチームは、患者や家族と共にそれぞれのプロジェクトを進める。生み出される作品のひとつひとつが、末期患者にはかけがえのない意味を持ち、自分の死後もあとに残った人達に受け継いでもらいたいという思いがこもっている。芸術家達はボランティアの助けも借りて、音楽を演奏したり、寸劇を演じたり、展覧会を主催したり、ホスピス内や庭園の植物を世話する。ケア環境づくりに自然の果たす役割も、充分に認識されている。部屋には大きな窓があり、患者達は周囲の自然美を眺めて楽しむことができるし、部屋からすぐ庭園に出られるようになっている。

(上記の一部はコネチカット・ホスピスのホームページを参考にした。)ホームページのアドレス:http://www.hospice.com/cthospice/hcare.html

 

現在、コネチカット・ホスピスは、コネチカット州ブラッドフォードのホームポートコーブに移転している。移転は2001年の母の日に行われた。同じ建物の中に、ジョン・D・トンプソン・ホスピス教育、研修、研究機関も入っている。移転後の建物が紹介された「コネチカット・ホスピス通信」第1号は、pdf形式でwebサイトからダウンロードすることができる。

 

ほとんどのホスピスがセントクリストファー・ホスピスを参考に作られているだけに、患者の全人的ケアに芸術-音楽や演劇療法、絵画、彫刻、詩等-が取り入れられていることは容易に理解できる。理解できないのは、なぜ他のヘルスケア施設では芸術の大切さがそれほど認識されていないのかということである。保育園や幼稚園の壁にはよく、明るい色づかいの園児達の作品が飾られている。小児科病棟も、同じような雰囲気でしつらえられている。さらに、これまで見てきたように、人生最後の日々を過ごすホスピスも芸術作品で美しく飾られている。それなのに診療所や病院、高齢者デイケアセンター、高齢者用住宅、老人ホームにはどうして、芸術作品が余り見られないのだろう。最近ようやくこの方面に社会の関心が向きだしているようだ。今のあり方に疑問を抱く人が増え始めている。まずは問題を認識すること。その上で、芸術を取り入れたより高い生活の質の獲得に乗り

 

 

 

 

 

 

出さなくてはならない。

 

ベイリーブーシェイハウス

Baily-Boushay House

2720 East Madison

Seattle, Washington 98112

電話(代表)206-322-5300

Fax(代表) 206-720-2299

http://www.virginiamason.org/dbbailey-boushay/

 

ベイリーブーシェイハウスはベッド数35の特別養護老人ホームで、エイズ患者専用のデイケアサービスも行われている。開設は19926月で、この種の施設としては最初のものである。今日では全米に名が知られ、入居者のケアやエイズ患者やその他の深刻な病気の患者のデイケアに当たっている。他のホスピスと同じく、ここでも患者に最適の生活の質を維持するのに芸術が大きな役割を果たしている。



[1] Cf. Christopher Alexander, et al  A Pattern Language,  New York: Oxford University Press, 1977, Section 40, “Old People Everywhere,” pp. 215-220.

[2]  Florence Nightingale, Notes on Nursing: What it is and what it is not,, pp. 58-59,  New York: Dover Publications, 1969 (American edition first published in 1860) .

[3] Peter Kaye “Some images of illness,” p. 43;  in Mandy Pratt and Michele J. M. Wood, editors, Art Therapy in Palliative Care: Creative Response. (London: Routl