第7章

芸術の役割-成功しているプログラムに見られる共通のテーマと特徴

はじめに

生活の質の改善につながる芸術プログラムには、大きく分けて参加型と受動型がある。つまり、水彩画講座や回想録の作成など実際に何かを生み出すプログラムと、演奏会や展覧会に出かけるような鑑賞プログラムに大別される。退職者コミュニティや老人ホームでの芸術活動は、芸術に対する知識や興味の有無にかかわらず「諸活動主任」が担当することが多い。そうした主任にとっては、芸術は単に時間割を埋める諸活動のひとつに過ぎない。その場合、おそらくは芸術の専門家で、高齢者に指導するための研修を受けた人達が中心になって講座を開いたり、企画したりするのだろう。芸術とセラピーの両方を学んだ専門の芸術療法士が講座を受け持つこともないとは言えない。その場合、高齢者の多くは芸術創作に乗り気だが、セラピーを受ける必要があるとは思われたくないようだ。また、芸術家自身が企画、運営に当たり、純粋に芸術のための芸術を扱うプログラムもある。美術館主催のプログラムや芸術センター、生涯学習プログラムにはすべて芸術の専門家達が関わっている。こうした芸術プログラムの多くは、ボランティアの善意なしには続けることができないだろう。ボランティアは退職者が多いが中には若い人も混じっていて、企画、資金集め、講習、送迎等、プログラムのいろいろな面を支えている。

今の時代は、高齢者にとって「期待の高まる時代」とでも言うべきだろう。ひと昔より快適な老年期になることを見込んでいるばかりか、そのような老年期を要求しているのである。私達の「生活の質」は、主として現在の自分の生活状況をどう受け止めるかにかかっている。芸術を創作している人は、色、形、題材、画法などをめぐって常に選択を行わなくてはならない。そのように自分で選び取れるということが生活の満足度につながる。演劇や舞踊を行う人は、普段は表に出せない感情を素直に表現することができる。どちらの場合もそうした創造性はチクセントミハイが「フロー」という語で表した喜びの現象、すなわち無心に創作活動に没頭して独特の幸福感を覚える状態に結びつく [i] 。自分の大切なものを次世代に伝えていくことも満足感につながる。エリクソンは中年期において最も大切な仕事は「生殖性」を持つこと(チクセントミハイはこれを遺伝子やミームの伝授と呼ぶ)、つまり次世代の若者を育て理念や価値観を伝授することだと述べている [ii]。これは晩年期においてもやはり大切なことだ。次世代に何かを伝え遺したいという願望を、高齢者は折にふれ口にする。創作活動はこうした願いを実現する一方法である。

高齢者用の芸術プログラムの大半は、作品を制作する機会を与えたり、正統的な芸術作品に触れたりさせるものだ。心に感じている深い想いを表現することでも、作品を見聞きして感動を覚えることでも、芸術体験は自己の内奥にしみ入る。内なる自己と交わることで生活にバランスが生まれ、自分の現在の状態に満足することができる。

芸術と生涯教育

美術史、絵画制作、音楽、演劇、文学等の講座は生涯教育プログラムの定番である。大学と提携しているものも多い。また、美術館の教育プログラムや地元の芸術連盟も芸術に触れる場を提供している。Universities of the Third Age (U3A) (高齢者大学)( http://www.u3a.org.uk/ & http://www.u3aonline.org.au/), Institute for Learning in Retirement (ILR)(退職者教育協会) (http://www.allshouse-associates.com/ilr_usa.htm), Elder Hostel (高齢者ホステル)( http://www.elderhostel.org/welcome/home.asp )のウェブサイトには、こうしたプログラムが数多く紹介されている。受講者達は学び続けることで、いつまでも好奇心を保つことができる。(日本では種々のカルチャーセンターで科学から芸術まで多岐に渡る講座が開かれ、成人が受講している。)アメリカではハーヴァード大学継続教育部に1977年に創設されたハーヴァード退職者教育協会やアッシュビルのノースカロライナ大学に1988年に創設されたノースカロライナ退職者センター(NCCR)等、有名大学主催のプログラムがある。どちらも第5章にURLを含め紹介してある。こうしたプログラムは、当然ながら人気が高い。高齢者対象の芸術・文化プログラムの効果を示す証拠は、質量共にますます増えてきている。第8章、及び本章の別の箇所で詳しく触れる。

3大喪失

次に、高齢者の生活の質に深く関わるいくつかのことがらを改善するために、芸術が果たしている役割について述べてみたい。「いくつかのことがら」とは、地域社会からの孤立(社会参加の機会の欠落も含む)、他者との(特に若い世代との)個人的な触れあいの減少、記憶の衰退の3点で、いわば「3大喪失」とでも言えるものである。

高齢者は老人ホームに入ると、住み慣れた近隣社会から引き離されることになる。文字通り根元から切り離されてしまうのだ。同一住居で生涯を送れる(家庭で齢を重ねていく)としても、可動範囲がせばまり外出が困難になるにつれ、近隣住民との交流は減ってくる。その上、近隣住民に門戸を閉ざしている老人ホームも多く、高齢者は地域社会やそこでの諸活動から遠ざけられてしまう。地域社会の中で自分を活かす機会はいよいよ減少する。一方で諸活動へのボランティア参加が、施設の開放度を示す尺度となっている。

加齢と共に、親しい友が徐々に世を去り孤立感が深まっていく。その上、老人ホームやアメリカの退職者コミュニティでは子供との同居を制限するところが多く、世代間交流をさらに難しくしている。高齢者が「熟年者ならではの知恵」を活かす機会は減少する一方である。

記憶が衰えると、次第に自己を見失っていく。味気ない索漠とした環境で、親しい仲間もなく世間から隔絶されて暮らし続けていると記憶が衰え自分というものの認識も低下していく。その結果、鬱になることもある。慣れ親しんだ環境や地域社会からの隔絶、他者(特に若い世代)との個人的な交流の減少、知的刺激の減少――こうしたすべてのことが鬱を引き起こす。この3大喪失は、他の諸要素と絡み合っている。芸術プログラムは、こうした潜在的な喪失を阻止するひとつの良い方策である。高齢者の生活の質に多大な悪影響を及ぼすこの3大喪失を改善する媒体として、芸術の果たしている役割について考えてみたい。

○芸術と地域社会

○芸術と世代間交流

○芸術と回想・記憶

芸術と地域社会

Living History Theater Festival

第5章で紹介したニューヨークに拠点を置くNPO、Elders Share the Arts (ESTA)(高齢者芸術協会)では1979年の創設時以来、世代間交流芸術活動を通して地域社会興しに尽力している。第5章でも紹介したがLiving History Theater Festival(生きている歴史劇祭)は、ESTA主催の主要プログラムのひとつで、学生と高齢者が共に参加し、人種、社会的地位、年齢の違いを超えた真の共同社会の精神の育成に貢献している。

ESTAプログラムのURLはhttp://www.halsell.net/projects/ESTA/main.html

ホドソン劇団の歴史については、スーザン・パールスタイン著「思いでの舞台:高齢者による生きている歴史劇」(A Stage for Memory: Living History Plays by Older Adults)参照  [iii]公共芸術プロジェクト :セナター・ジョン・ヘインツ地域歴史センターの壁画

カーネギー・メロン大学建築課の美術教授ダグラス・クーパーは、ここ数年間、高齢者達と共に公共建造物の壁面を飾る壁画プロジェクトに取り組んでいる。高齢者は鮮明な記憶を通して、過ぎ去った日々を再び生きることができる。ヘインツ歴史センター壁画は、ピッツバーグのイーストリバティ地区の高齢者諸活動センターの高齢者達が1992年3月に制作したもので、これがクーパー氏の壁画プロジェクトの皮切りとなった。他に以下のようなプロジェクトがある。フィラデルフィア裁判所壁画(1995)、フランクフルトのクラインマルクサーレ壁画(クラインマルクサーレはフランクフルトの中央食品市場)(1996)。詳細はダグラス・クーパー著「公共壁画」(Civic Mural)参照。(http://www.andrew.cmu.edu/~dcooper/)

回想談発表

回想談発表の画期的な例として、ワシントン州タコマのピアス郡立図書館に高齢者が集まりそれぞれの人生体験を語ったり書き表したりしたAll My Somedaysというプロジェクトがある。このプロジェクトに参加して、高齢者は一様に深い充足感が得られた模様である。談話だけではなく、写真や種々の絵、詩等、何であれ各人の希望に応じて挿入することができる。こうした個々人の回想は、地域社会の歴史に関わるものも多い。「生きている歴史」は参加した高齢者に若い頃の日々を蘇らせてくれるだけでなく、地域社会の過去の生活を生々しく再現するのにも役立つのである。このプロジェクトを指揮するロナルド・J・マンヘイマーはタコマ・ニュー・トリビューン紙(1981年2月15日付)に次のような記事を載せている。

人は自分の知識を過小評価しがちである。それを形として表す術がないからである。他の人の体験や広義の意味と関連付けて見ることができない。しかしこうしたごく普通の人々こそ、アメリカの歴史を支えてきた庶民達なのだ。こうした人々こそが私達それぞれにつながっているのである。

これまでの人生を振り返ってみる過程で、各人が歴史の中に占める自分の位置に気付き、この先もどこまでも社会とつながっていることを改めて認識するようになればと願っている。人生体験を分かち合うことで、それぞれの人生の意味の深さが伝わっていくとは、実に素晴らしいことである。 [iv]

もちろん、人生体験を語ることは世代間を結ぶ架け橋ともなり、これまでの人生を振り返り記憶を新たにする手段としても役に立つ。トレイシー・キダー著「旧友たち」にはアメリカ北東部の老人ホームの入居者二人の話がまとめられている。(”Old Friends” Boston & New York: Houghton Mifflin Company, 1993)

芸術と世代間交流

テンプル大学世代間交流センター(CIL)

Temple University
Center for Intergeneration Learning
1601 North Broad Street, Room 206
Philadelphia, PA 19122
(215)204-6970 phone
(215)204-3195 fax
url: http://www.temple.edu/cil/ (2003年7月2日アクセス)

1979年に設立されたテンプル大学世代間交流センター(CIL)では、高齢者とさまざまな年齢の子供達に触れあいの場を与え、地域社会の老若世代の双方に貢献している。住民の参加の奨励、各団体や組織間の連携を促進、情報センターとして情報供給――こうしたことがセンターの活動内容の一部になっている。すべてのプログラムに対し、センターでは無料の研修とあらゆる支援を行う。他の地域社会に世代間交流プログラムを導入する支援として、出版物やビデオも用意している。各種のプログラムはボランティアが中心になって行う。ある種のプログラムにおいては青少年も高齢者も一様に少額の給付金を受け、プログラムを成功させるために自分たちの果たす役割の大切さを認識する。生涯教育、健康への関心、個人・社会問題の対策に重点が置かれている点に着目したい。

プログラム紹介 (CILプログラム紹介ウェブページより引用)

*Across Age(世代を超えて)
麻薬使用阻止のプログラムで、高齢者がリスクの高い中高生の指導にあたる。

*Experience Corps(体験隊)
識字の全国プログラムで、高齢者が小学生に読み書きを教える。

*Family Friends(家族の友)
高齢者が特殊児童を抱える家庭をサポートする全国プログラム。

*Full Circle Theater(みんなの劇団)
世代間交流型の劇団で、学校や高齢者センター、地域社会の団体や組織、企業で社会問題を即興に演じる。

*Grandma’s Kids(おばあちゃんっ子)
祖父母達、または代理の保護者達が放課後の子供達を世話して暴力や事故から守る。

*Homefriends(家庭の友)
児童ネグレクト防止プログラムで、子供に対する虐待やネグレクトの疑いがある家庭を高齢者が指導する。

*Project SHINE
全国プログラム。大学生が高齢の移民や難民に言葉や読み書き、市民権取得のための教育を提供。

*Time Out(中休み)
大学生が、介護老人を抱える家庭を訪問して、介護者に休養を与えるプログラム。

CILではアメリカ以外の国での世代間交流プログラムの情報も提供している。たとえばイギリス、フランス、シンガポール、バハマ、タンザニア、日本等。CIR刊”Interchange”の1999年春季号参照。

芸術と記憶

一般的に言って、記憶は過去の体験を覚え、保存し、思い出すのに使う[v] (5)。高齢者は記憶の衰退に伴うさまざまな問題に直面する。記憶を失うことは自分を失うことでもある。このことは加齢に対する最大の気がかりのひとつである。「回想セラピー」と「ライフレビュー」は高齢者の記憶維持を助けるプログラムである。なかでも芸術は非常に大切な役割を果たす。人生のあらゆる面において記憶の果たす役割は大きいので、前述のCILプロジェクトでも記憶というテーマは切っても切り離せないものとなっている。ダグラス・クーパーの公共芸術プロジェクト(たとえばフランクフルトの中央食品市場クラインマルクサーレの壁画)、ワシントン州タコマのピアス郡立図書館の回想談発表プロジェクト、テンプル大学世代間交流センター(CIL)のFull Circle Theater等。この他にも記憶と芸術に関する優れたプログラムがあるが、以下にいくつか紹介しよう。

ESTA のLegacy Works Program

ESTA のLegacy Worksは、十代の若者が高齢者と一緒に芸術作品を作る視覚芸術プログラムである。ESTAの芸術家達はまず若者に研修を受けさせて、高齢者に会って人生体験を聞きコラージュのやり方を指導できるように育成する。研修を受けた若者は二人一組になって高齢者を週30分間訪問する。毎週4人の高齢者を、それぞれ訪問することもできる。心身機能の衰えた高齢者は家にこもりがちなので、週一回の若者の訪問は地域社会からの新たな支援となっている。若者は自分たちの地域の歴史や、高齢者に対する尊敬の念を学ぶ。高齢者も、自分たちがまだ地域社会に役に立っていることに気付く。面談の後、若者は高齢者から思い出がいっぱいの材料を集める。若者と高齢者が力を合わせて「回想録」かコラージュを生み出す。高齢者の気晴らしをはかる活動という程度ではない。それぞれの高齢者と若者のチームが、家族や友人に遺産として譲り渡せるような本当に素晴らしい芸術作品を創り出しているのである。最後の展覧会は特別ショーとして参加者全員の作品を一堂に集めた。このプログラムは、ラテン系、アフリカ系アメリカ人への支援サービス機関であるイーストハーレムのユニオンセツルメント・ハウスで1996年に行われたものである [vi]

The TR-Bio (治療、健康回復のための伝記制作)

TR-Bioはジーン・コーエンの指導するA Creativity Discovery Corps(創造力発見隊)のプロジェクトである。コーエン氏によると、「TR-Bioプロジェクトの目的は、患者の記憶の維持や復活に努め、さらに活用させて、患者本人や家族、職員、ボランティア、その他周囲の人々の利益を計ること」である(コーエン:p195)。コーエン氏は父親がアルツハイマー病を患ったのをきっかけに、このプロジェクトを立ち上げた。患者本人や家族、友人が協力しあって、患者とその家族の伝記を記念アルバムかビデオの形にまとめるのである。家族や友人の協力で患者に思い出させた話をまとめておけば、患者の記憶が徐々に薄れていくときこうした回顧録が患者の記憶代わりとなってくれる。患者の方でも、自分の過去に通じるこのささやかな扉の存在を楽しんで、にこにこと制作に関わることができよう。素描、絵画、写真、音楽、コンピュータグラフィックス、文章等、誰もがそれぞれ得意な分野で制作に参加できるのだ。芸術がこのプロジェクトに彩りと密接感を生み出す。できあがった作品は、誰もが誇り得る質の高い伝記である。

コーエン氏はTR-Bioプロジェクトの興し方も示唆している。地域社会の世代間交流プロジェクトとして、たとえば、高校生に研修を受けさせてプログラムの監修をさせる。アルツハイマー病患者用等の特別養護老人ホームでは、諸活動担当主任が研修を受けて、TR-Bioを含む諸活動の指導にあたる。TR-Bioの導入にはそれほど多くの資金は必要ない。「語り」という芸術の力で、治療にも役立ち患者の生活の質をも高められる [vii]

記憶回復のための環境作り

徐々に訪れてくる記憶衰退の問題にどう対峙するかは、私達の記憶というものに対する受け止め方が反映されることになる。人間の記憶は各人の脳や精神、肉体のみに宿ると考えてはいけない。各人を取り巻く環境や、各人の愛する持ち物の中にも記憶が絡んでいるのだ。人は慣れ親しんだ環境の中にも、自己を投影する。慣れ親しんだものを人から取り上げることは、その人の自己の一部、自己の記憶の一部を捨て去ることに等しい。今日、世界中で建築家やインテリアデザイナー達は、人々の健康と福祉に寄与するヘルスケア施設や高齢者用住宅、コミュニティを設計しようと努力している。家庭で自立生活が送れなくなった高齢者は、必要なケアが備わった高齢者用施設に移ることになる。入居者に家庭的な雰囲気を味わってもらえるように工夫した高齢者施設が、この先ますます増えていくことだろう。急速に高齢化が進む私達の社会において、建物の構造やデザイン、インテリアを通じて高齢者の福祉と自立維持にいかに貢献できるかが大きな課題である。加齢に伴い衰退していく記憶力を強化するような斬新な方法が何かあるだろうか。これを踏まえて、以下にいくつかの取り組みを紹介する。

メモリールーム(思い出の部屋)

ある家族がシアトルに本拠を置く建築会社に、子供時代を過ごした家の「朝食の間」と同じデザインの部屋を建て増してくれるよう依頼した。アルツハイマー病を患う高齢の女性(依頼者の母親と思われる)が、昔の生活を思い出せるようにとの願いが込められていた。窓からは陽光がさんさんと降り注ぎ、窓仕切にはまった小さな板ガラスの一枚一枚がその女性に子供時代の家を思い出させた。部屋の中にはこれまた思い出を促すような物や、愛用の品々をたくさん置いた。壁には女性が気に入っていた絵画を掛け、ソファーの背後の壁には棚を作り付けて、大切にしていた小彫刻や磁器の皿、写真を飾った。写真の中には、子供時代の家を写したものもあった。高齢者が記憶を維持する支援策として、何とも優美で思いやりにあふれた方法である [viii]

上述の例は、文字通りメモリールームと呼ばれている。他の例として、マイアミジューイッシュ高齢者用ホームではレトロ調にしつらえたスペースにアールデコ様式のアイスクリームパーラーを設けている。

メモリーウォール(思い出の壁)

高齢者住宅ではよく壁のひとつを展示コーナーにあて、入居者や隣人、住宅の歴史を伝えるような写真、絵画、その他の思い出の品々を展示している。部屋のくぼみや専用の小部屋を展示コーナーにして、現在の入居者のこれまでの歩みを伝えているところもある。リヴァデイルジューイッシュ高齢者用ホームに作られたスウェットショップは、この良い例である。入居者は自室に手持ちの古い写真や絵を飾り、自分だけのメモリーウォールを作ることもできる。これは別に珍しいことではない [ix]

思い出のインテリア、家具

高齢者はやむなく施設に移る場合、自分の家具の一部を持ち込んで新しい居室にこれまでの家や生活を思い出せる雰囲気を作りたいと願う。施設の共有スペースには、入居者にとってより親しみやすい家庭的な雰囲気を生み出すために、職員の手でわざわざ古い家具を据えることも多い。地元の美術館と提携して、収蔵品の中から本物の古物を借り受け施設に展示するところもある。このようなことは日本でも、その他の国々でも行われている [x]

思い出の建物、思い出の近所

日本で最近、歴史的建造物への関心が高まっているのは、急速に高齢化が進む社会の現状と無関係ではないはずだ。数年前なら古くなりすぎたという理由だけで素晴らしい建造物が取り壊され味気ない現代建築に取って代わられていたのが、最近は住民(多くはその建造物の近くに住む人々)が取り壊しに反対して、古い建造物を修復し公民館などに活用する傾向がある。慣れ親しんだ環境を作ることは、アルツハイマー患者の治療に役立つ。このような療法は「環境セラピー」と称される。親しみのある環境におかれた患者は、これまでの日常生活活動をよりすんなりと続けていくことができるだろう。コネチカット州ニューカナンのヴィレッジ・ウェイヴェニィ・ケアセンターは、環境セラピーのあるケアハウスである。主要リビングエリアは、入居者の若かった頃、すなわち1950年代の小さな町の本町通りに似せてデザインしてある。雑貨店や縞々の回転ポールのある床屋といった建物が並び、入居者の記憶を蘇らせるのに役立っている [xi](11)。

加齢に伴いがちな記憶の衰退は、高齢者の生活の質を改善する方法を模索している私達すべてにとり、大きな課題である。記憶サポートプログラムを取り入れる退職者コミュニティや老人ホームが増えてきている。こうしたプログラムを行うには施設の建物やインテリアのデザインに、また入居者向けのさまざまな活動に芸術を導入する必要がある。上述したのは簡単な紹介に過ぎない。The Center for Health Design(ヘルスデザインセンター)のウェブサイトには、健康と一般的なデザイン、アルツハイマー病と特殊デザインの関係が示されている。(URL: http://www.healthdesign.org/brawley.html)



[i] See Mihaly Csikzentmihalyi, Creativity : Flow and the Psychology of Discovery and Invention (New Y ork: HarperCollins (paper), 1991), pp. 110-113 for defintion. Also check Mihaly Csikzentmihalyi, Flow : The Psychology of Optimal Experience (New York: Harperperennial (paper), 1996), p. 243-notes, p. 10ff.

[ii] Csikzentmihalyi, Creativity : Flow and the Psychology of Discovery and Invention,
p. 199-201.

[iii] Susan Perlstein, “A Stage for Memory: Living History Plays by Older Adults.” In Marc Kaminsky, editor,The Uses of Reminiscence: New Ways of Working with Older Adults. New York: The Haworth Press, 1984. (Originally published in Journal of Gerontological Social Work, Volume 7, Numbers 1/2, March 1984) pp. 37-51.

[iv] This is quoted from Mary Baird Carlsen, Creative Aging: A Meaning-Making Perspective (New York: W W Norton & Company; 1991), p.165; see also p. 159.

Carlsen includes this discussion in her Chapter 9, “Narrative and Meaning-Making”

where she discusses “Narrative and the Therapeutic Process” and “Life Review.”

[v] An interesting source for the relationship between memory and the arts is

Daniel L. Schacter, Searching for Memory: the brain, the mind, and the past,

New York: Basic Books, 1996

[vi] See Susan Perstein, “Really Caring: Why a Comprehensive Healthcare System Includes the Arts,” (originally appeared in High Performance #74, Winter 1996; online at http://www.communityarts.net/readingroom/archive/perlstein74.php .

[vii] See Gene Cohen, The Creative Age, New York: Avon Books, 2000.

Part II: Special Projects The TR-Bio (Therapeutic/Restorative Biography)

pp. 283-290.

[viii] See Ojeda, Oscar Riera, ed. “Cuarto del recuerdo/ Memory Room , by Olsen Sundberg,” Casas Internacional, v. 59, Dec. 1998, pp. 48-51.

[ix] Elizabeth C. Brawley, Designing for Alzhemer’s Disease. New York: John Wiley & Sons, 1997. See Figures 12-5 and 12-6.

[x] See Yomiuri Shimbun 2002 June 29, p. 25, article on recreating living places from the old days in conjunction with care for elders suffering from dementia.