Appendix I 和訳

Humanitas in a Nutshell

By Hans Becker CEO The Humanitas Foundation

Translated by Yukiko Hattori 服部由紀子

 

Humanitas協会及びHumanitas Woonzinnig協会の歴史や活動状況を、大まかにまとめてみました。(オランダのホームページを転載したものではありません)

 

目次

1.Humanitas協会の概略

2.オランダのこれまでの高齢者用住宅

3.老人ホームやケア・ハウスの移り変わり

4.ロッテルダムの現在の状況

5.基本理念

6.今後の課題

7.Humanitas Woonzinnigについて

 

Humanitas協会の概略

Humanitas協会は、住宅や在宅ケア、及び介護や治療のプロバイダーとして活動している非営利組織で、現在およそ1800人の職員がいます。当協会が運営するアパートや住宅、老人ホームで暮らす高齢者数は約4000人にものぼり、この分野ではオランダ最大の組織の一つです。

 

基本的な健康管理と施設での介護を融合させて、高齢者や慢性病患者にもっと幅広い統合的なサービスを提供することはできないものでしょうか。ヨーロッパの各国がこの問題に取り組んでいます。

 

これに対して、Humanitas協会が編み出した解決策が「終身型アパート」(levensloopbestendige woning)です。これは老人ホームや病院での介護を含むあらゆるタイプの介護を、自宅で受けられるようにしたものです。あくまで各人の要求に応える形の介護です。高齢者が必要としているものは何か。彼らの立場に立って、必要な介護を決めるようにしています。

 

高齢者に本当の「福祉」、すなわち幸福(well-being)をもたらすものは、看護婦よりもペット、栄養士よりもバーのマスター、衛生第一主義の環境よりも潤いある芸術的な環境であると、Humanitasでは見ています。このことを常に念頭に置いて、活動しています。高齢者は概して、施設に入るのを嫌がります。病院、特別養護老人ホーム、老人福祉施設のような介護施設とは、関わりたくないと思っています。できるだけ避けて通りたいし、入居などもってのほかだと考えているのです。

 

とは言え、心身の機能が低下した場合施設入居もやむを得ないと、これまで考えられてきました。心身の状態に応じた介護施設が、どうしても必要になります。オランダに於ける老人福祉施設や特別養護老人ホーム、病院は、こうした施設なのです。

 

オランダのこれまでの高齢者用住宅

60年代の初め、すなわち戦後15年目頃、オランダでは住宅難が続いていました。住む家を見つけるのに、多くの若い世帯が苦労していました。そこで初老の人々を広さ約12平方メートルの完全介護付き一間アパートに住まわせることで、既存の住宅が活用できるようにしたのです。この「解決策」だと、新しい住宅建設はあまり必要でなくなります。60年代には、65歳以上の高齢者(健康な人が大半)の多くが、こうしたホームに住みたがっていたのです。この時代にオランダに建てられたホームの典型的なものは、概して次のようなものでした。

 

*内部に通廊の付いた横長の大型アパート

*大半が14平方メートルの一人部屋

*一部は25平方メートルの二人部屋

*自立生活を行う高齢者用の居間付き寝室つきの34平方メートルのアパート

*各階に共有のリビングルームとバスルームを各1室

*全入居者用の広い娯楽室があり、必要の有無にかかわらず全員に完全介護とサービスを提供

 

こうしたホームには「総合施設」の要素が多く見られました。いわゆる特養ホームは、患者が病院で治療を受けた後、家庭に戻れるくらい回復するまで滞在する、いわば準病院として発足したものですが、ここでも状況は同様でした。

 

老人ホームやケアハウスの移り変わり(1970~1990年)

70年代後半になると、高齢者が段々こうした高齢者用住宅を喜ばなくなってきました。住宅難の問題はすでに解消し、前より大きく住み心地の好い住宅が建ち始めていました。その結果、いつの間にか鶏小屋と呼ばれ出していた従来型のホームには次第に空室が目立つようになりました。1975年から1990年にかけて、部屋のサイズは徐々に大きくなり(最高50平方メートルまでに)、いろいろ改善がなされました。しかし多くの場合、高齢者自身の変化には十分な対応ができていませんでした。従来型のホームの入居者は次第に全面的な介護に頼るようになってきました。

1988年以降、こうしたいわゆる「ケア・ハウス」での介護やサービスは老人ホームとは別に行われるようになりました。完全介護および住居を提供する従来型のホームでは、入居者が財産をホームの運営費をまかなう社会保障局に預け、そこから一定の小遣い金を受け取る形でした。

 

今日では、入居者自身が、自分のアパートの家賃や管理・窓清掃等の経費を直接支払っています。必要な援助は、外部組織と入居者組織が協力して行います。

 

さて次に、特養ホームに入居する高齢者について見てみましょう。60年代から70年代前半まで、特養ホームは患者(大半が高齢者)が一時的に入居してリハビリを受ける施設でした。数週間あるいは数ヶ月後に、彼らは各々の家庭に戻りました。こうした施設は経済的な理由で生まれたのです。病院に入院するより、特養の方が金銭上の負担がはるかに安くて済みます。しかし、特養の入所者も次第に変わってきました。今日では、特養にいる患者の85パーセントが退所することなく終身そこで過ごします。昔の特養は病院に類似して作られていて、6人部屋や、4人部屋向けの作りで建てられました。高齢者が特養に入りたがらないのもこのためでした。特養に終身居るようになった今では、このような大部屋は、家庭的雰囲気やプライバシー、社会生活の継続等すべての面において不適当だと考えられるようになりました。

 

精神障害や慢性病の患者に対する介護や住宅問題でも、同様の進展が見られます。こうした患者用の「収容所」はかつては頑強な建物で、社会から隔絶されていました。そこで、建物を次第に小規模化して個室を大幅に増やし、普通の生活環境が取り入れられるようになりました。入所者を12人を上限とするグループに分け、グループ毎にそれぞれの家に住むようにしたのです。

こうした脱施設化は、障害者をひとまとめにせず少人数のグループに分けることで社会生活により溶け込み易くするという狙いがあります。多くの高齢者や障害者の介護問題を解決するには、自立生活が要となります。

 

高齢者を施設解放し、圧力団体の力で専門家の意見を採り入れたことで、こうした問題に光が当たるようになりました。ヨーロッパの中でも施設で暮らす65歳以上の高齢者の割合が最も高いオランダでは、特にこうした改革の影響が顕著です。

 

高齢者が圧力団体を介して検討を願っていることは、以下の通りです。

*できるだけ独立した機能を有していること

*配偶者(あるいは子供)と一緒に暮らせること

*プライバシーの確保

*介護の必要量が増しても施設を移る必要がないこと

*住居費と介護費は別請求になっていること

*地域社会の中に住み、社会とつながりを保てること

*介護内容は高齢者各人の必要に応じたものであること

*必要な介護が常にきちんと受けられること

 

上記を住居面から見ると、つまりこうなります。高齢者に合わせた3部屋のアパート、車椅子やストレッチャーが使用可能なつくり、台所・バスルームの設備の充実。さらに、今後のテクノロジーの進歩に合わせて、新しい機器が容易に取り付けられるつくりであることも大切です。

 

ロッテルダムの現在の状況

オランダで、こうした政策の先端を行くのがロッテルダムでした。ここでの様々な試みがやがて他の都市でも採択され、徐々に国の基準になってきたのです。Humanitas-BergwegとHumanitas-Akropolisのプロジェクトはそのよい例です。私たちの組織が公的機関の援助を受けて進めたものです。Humanitas-Bergweg は、高齢者の占める割合が多い割に(総人口51000人の27パーセントが65歳以上)良い施設がほとんどなく介護の供給が追いつかないでいた地区に作られました。

 

Humanitasの介護方針

1959年に設立されて以来、Humanitasは介護の領域の拡大を目指しています。

 

*自己責任と自己決定:介護は必要最小限に(むやみに手出ししない介護を)

*介護の中心は患者自身とボランティアの手で(身体は使わないと駄目になる)

*家庭生活と介護の区別を(家庭に於いては患者は主)。終身型アパートでは、特養と同じ介護が家庭内で受けられる

*脱施設化。分散に反対、再統合の推進

*地域住民とのつながり。地域のいろいろなグループや社会組織との交流。

*福祉要素(瀟洒なレストランやバー、ペット、外部のブリッジ・クラブ、展覧会、「ヴィレッジ広場」内での結婚披露パーティや切手収集家の交流マーケット)もHumanitasの活動の中に組み入れる

 

終身型アパートでは、出来るだけ自分のことは自分でこなすよう奨励して、高齢者が自立した生活を送れる雰囲気作りに心がけています。居住者はもはや転居を言い渡される心配がないので、社会とのつながりを断たずに済みます。脱施設化、個人の活動、近隣地域との交流も、この傾向を後押ししています。

終身型アパートの敷地内に設けたシェルター、各人に合わせた介護や「身体は使わないと駄目になる」という方針、その他の刺激等で、高齢者は出来るだけ健康維持、さらには健康増進にすら努めるようになります。過度の介護は、介護不足よりもマイナスなのです!介護は数人のケア・サプライアーが受け持ちます。こうしたケア・サプライアーの調整も大切な仕事です。サプライアーによる様々な介護の調整は、介護契約の中できちんと規定しておく必要があります。介護に関する全要望を受けつける窓口を設け、常勤のケア・マネージャーがそれぞれの要望に対処できるよう手配します。介護契約を作成するときは、依頼人である高齢者が介護の量、内容、時間等を決めることが出来ます。このような形で、高齢者自身が自分の生活の主導権を握り続けるのです。あくまで、高齢者の自己管理が政策の中心になります。

 

適切なアクセシビリティと総合機能を備えた施設は、外部の人たちを惹きつけます。外部者が敷地内にいることで、入居者も活気づき意欲的に行動することになります。地域社会の人たちのこうした訪問で、入居者と外部社会に交流が生まれます。それがなければ、病院と変わらなくなってしまうおそれがあります。

 

基本理念

*住居と介護の厳密な区別;介護から家庭へ

*脱施設化:施設介護から、より洗練された家庭介護へ

*多様性:職業、収入、健康、年齢、移住者や原在民の多様性を認め誰でも受け入れる

*配偶者から引き離さない

*「身体は使わなければ駄目になる」:必要以上の介護は逆効果*「手出しをしない手助けを」:高齢者の独立と自律を促す(限界点まで努力させる)

*プラス思考で前向きに取り組む:会議には金がかかるが人の意欲は逆に利益を生む!

 

こうしたことの全てが、成果を上げています。高齢者たちはもちろんのこと、助成金を出す機関や投資者、ケア・マネージメントに於いても成果が見られます。

 

1995年12月に初めて終身型アパートを300戸分(現在は1000戸)オープンして以来、ここでのHumanitas理念に沿った試みは、今日の高齢者の要望に合ったものとなっています。

特養ホームと100パーセント同質の介護の提供も、実現出来だしています。例えばアルツハイマー病患者でも、病気の初期段階で入居すれば、この環境の中で完全に自立した生活が送れます。Humanitasのアパートでは、不必要な介護は一切与えていません。ましてや、患者に難癖をつけ恩着せがましい介護を行うことは、ここでは決してありません。このことは、高齢者の自信や自尊心を高め、満ち足りた老齢期を過ごせるように努めています。

 

これほど質の高い介護とゆったりした住空間を手に入れるには、かなりの費用が掛かるのでは?老齢年金や社会保障の枠内で生活している老人達には、入居は無理なのでは?ところが 、Humanitasの福祉は従来の老人福祉と同じ経費で実現できるのです。以下に、その明らかな利点を幾つか紹介してみましょう。

 

*従来のホームには広々とした多目的室や高価な医療備品が必要だったため、Humanitasの3部屋アパートがそれより割高になることはない。

*配偶者、親戚、ボランティアから最大限の援助を受けることが出来る。

*高齢者自身が炊事や家事に関わることで、施設でサービスを受けるよりずっと安くつく上に、個人の好みに応じた生活が出来る。

*施設生活は、福祉や真の幸福という点で高齢者を満足させることが難しい。その結果、心理専門家のサポートを要する場合もあるが、Humanitasのような自然な環境ではその心配がなく、精神科医や福祉職員、その他のセラピストのために時間を浪費せずに済む。

 

介護は以前とは変わっています。各個人の必要に応じた介護は、施設では望めません。Humanitasのスタッフは介護に全面的には関わりません。高齢者自身に、自分の福祉に責任を持たせるという考え方からです。こうした新しい考え方のおかげで、職員の意識にも変化が生じています。これまでは身体機能の個人差にかかわらず、全ての高齢者を一様に介護するように訓練されていた職員達が、今では、高齢者に自分自身のことは出来るだけ自分でするよう指導するようになりました。つまり「手出しをしない手助け」の精神です。このような介護には並々ならぬ柔軟性が要求されます。

Humanitasの過去の調査では、完全介護から必要最小限の介護に切り替えられた患者達は、新しい環境に職員達より早く慣れるという結果が出ました。このことは、当然ともいえます。家事や家計に責任を持ち身体を動かすことで、高齢者の自信が深まり、自立心が高まるのでしょう。プラス思考(失敗があまりに明白な場合を除き、全ては可能であると見る前向きな思考法)で、さらに快適な環境に変えていくことが出来るのです。こうした雰囲気が外部の人たちをも惹きつけ、アパートをさらに楽しい生き生きした場(バー、レストラン、ペット、美術展、演奏会ホール)にしていることも忘れてはなりません。

 

今後の課題

今後の課題について考えてみましょう。特養ホーム並みの介護が可能な高齢者用住宅は、まだまだ不十分です。Humanitasではすでに、病院の機能を持たせた終身型アパートをオープンしています。オランダでは、病院はますます集中治療に絞られていく傾向にあります。将来は、集中治療しか行わない場になるかもしれません。

Humanitasではすでに、糖尿病、喘息、骨折、ヘルニア、脳出血、透析、眼・耳疾患、心臓病、胃その他の内臓障害等の余り複雑でない治療を試験的に行っています。精神病の患者、末期患者、寝たきりの患者も対象に含まれます。

もちろんこれには最新のハイテク器具(各人に合わせて用意したもの)が必要です。個人の住宅にちゃんとした病院の機能を持たせるのは、容易なことではありません。

しかし、だからこそ「プラス思考で常に前進」というHumanitasのスローガンが生きてくるのです。


『老人施設の「生活の質」と芸術の役割』